静岡市葵区吉野町に位置していた「寿司割烹 船正(ふなまさ)」は、長きにわたり多くの食通に愛されてきましたが、2024年9月末日をもって惜しまれつつその歴史に幕を閉じました。JR静岡駅から徒歩約14分というアクセスしやすい立地にあり、専用の駐車場も完備されていたため、遠方からの利用者や車での来店客にも便利な存在でした。
昭和47年に創業して以来、半世紀以上にわたり本格的な寿司と割烹料理を提供し続けてきたこの店は、その歴史の中で培われた確かな技術と、素材への深いこだわりで知られていました。常に40種類以上もの「天然」のネタを常備し、その日ごとに厳選された鮮度抜群の旬の魚介が、店のシンボルともいえる長いネタケースに美しく並べられていました。大将が腕を振るう寿司はもとより、活きの良い魚介を最大限に活かした焼物、揚物、煮物など、季節感を大切にした多彩な割烹料理も提供され、訪れる人々に日本の食文化の奥深さを伝えていました。静岡ならではの生しらす、桜えび、甘鯛といった地元の特産品も積極的に取り入れられ、その土地ならではの味覚を楽しむことができました。
店内は、落ち着いた和の空間が広がり、1階には臨場感あふれるカウンター席とテーブル席、2階には広々とした座敷席が設けられていました。総席数は66席を数え、特に8名まで利用可能なテーブル個室や、最大40名まで収容できる広々とした座敷席は、家族での会食、友人との食事、ビジネスでの接待、さらには歓送迎会や忘新年会といった大規模な宴会、法事など、幅広い用途に対応できる多様な座席配置が特徴でした。
メニューは、昼夜問わず様々なシーンで利用できるよう工夫が凝らされていました。ランチタイムには、手軽に楽しめる「船正ランチ」や「づけすきみ丼」などが用意され、手頃な価格で本格的な味わいを堪能できました。特に「づけすきみ丼」は、赤身の「づけ」と旨味のある「すきみ」が絶妙なバランスで提供され、多くの客から好評を博していました。夜の部では、大将がその日に仕入れた最高のネタで握る「おまかせ寿司コース」が人気を集め、12種類の握りに茶碗蒸し、味噌汁、デザートが付く充実した内容でした。また、寿司だけでなく、刺身、焼物、揚物など季節の料理が5〜6品供される「おまかせ会席コース」もあり、寿司と和食の両方を心ゆくまで味わうことができました。ドリンクメニューも充実しており、静岡の銘酒「磯自慢」をはじめとする地酒や、全国各地の限定品、幻の酒といった選りすぐりの日本酒、冷酒、焼酎などが幅広く取り揃えられ、料理との相性を考えた一杯を選ぶ楽しみも提供されていました。
特別なサービスとして、毎週土曜日には「カップルデー」が設定され、「おまかせ寿司コース」がお得な価格で提供されるなど、来店を促す工夫が見られました。また、誕生日や還暦のお祝い、卒業、入学、入社といった人生の節目におけるお祝い事や、法事などの家族の集まりには、予算や好みに合わせてコース内容やオードブルの相談にも柔軟に対応していました。お子様連れの客への配慮も行き届いており、お子様メニューの用意やベビーカーでの入店が可能であったほか、テイクアウトにも対応し、自宅で店の味を楽しむ機会も提供されていました。長年の歴史の中で、地域の人々に愛され、多くの思い出の舞台となってきた「寿司割烹 船正」は、その確かな仕事と温かいもてなしで、静岡の食文化に大きな足跡を残しました。