東京都港区西麻布に位置していた「濱松うなぎ 中川屋 西麻布店」は、明治10年創業という長い歴史を持つ浜松の老舗うなぎ料理店「中川屋」の支店として、2019年10月19日に開業しました。乃木坂駅からは徒歩約7分から8分、六本木駅からは徒歩約8分から9分ほどの距離にあり、西麻布の閑静なエリアにあるアートスクエアの2階に店を構えていました。その外観はアートギャラリーを思わせるようなスタイリッシュなビルで、一見すると伝統的なうなぎ店とは異なるモダンな雰囲気でした。店内も白を基調としたシンプルで洗練された空間が広がり、落ち着いた雰囲気の中でゆったりと食事を楽しめる設えとなっていました。席はテーブル席の他に、会食や接待にも利用できる個室も複数用意されており、様々なシーンに対応できる空間でした。
提供されるうなぎ料理は、浜松の本店で代々受け継がれてきた伝統の技法を用いて調理されていました。うなぎは一度蒸してから丁寧に焼き上げる関東風のスタイルを採用しており、特に焼き方にこだわり、通常よりも時間をかけてじっくりと火を通すことで、皮目はパリッと香ばしく、身はふっくらとした絶妙な食感に仕上げられていました。創業以来140年以上にわたり継ぎ足されてきた秘伝の甘めのタレが、香ばしいうなぎの旨みを一層引き立て、多くの食通を惹きつけていました。
メニューの中でも特に評判となっていたのは、4代目店主が考案したオリジナルの「うなぎとろろ茶漬け」です。この名物料理は、一杯目はうなぎ本来の味をそのまま、二杯目はかつおと昆布でとった風味豊かな出汁と薬味を加えてさらさらとお茶漬けとして、そして三杯目にはとろろをかけてまろやかな味わいをと、一杯で三通りの食べ方を順に楽しむことができるという独創的な一品でした。他にも、うなぎそのものの味を堪能できる「白焼き」にキャビアが添えられるといった意外性のある一品や、うなぎと肝を一度に味わえる「浜名湖丼」、独特のしゃきしゃきとした食感が楽しめる「うなぎしゃきしゃき丼」、そしてうなぎ料理としては珍しい「うなぎのからあげ」など、伝統的ながらも創意工夫が凝らされた多彩なうなぎ料理が提供されていました。もちろん、定番のうな重も用意されており、サイズを選ぶことができました。また、多くのメニューはテイクアウトも可能で、自宅でも店の味を楽しむことができました。
残念ながら、「濱松うなぎ 中川屋 西麻布店」は、人手不足といった理由から、2023年5月末日をもって閉店いたしました。短い期間ではありましたが、浜松の老舗の味とモダンな空間の融合は、西麻布において独自の存在感を放ち、うなぎを愛する人々の記憶に残る店となりました。