大阪市西成区太子に位置する「ゲストハウスとカフェと庭 釜ヶ崎芸術大学」は、NPO法人によって運営されるユニークな複合施設です。大阪メトロ御堂筋線・堺筋線「動物園前駅」の2番または8番出口から南へ徒歩およそ5分、JR「新今宮駅」からも徒歩圏内というアクセスしやすい立所にあり、昭和の雰囲気が残る動物園前一番街商店街の一角にあります。単なる宿泊施設や飲食店に留まらず、「であいと表現、学びあい」を活動の軸としており、訪れる人々に多様な交流と体験の機会を提供しています。
施設名にも冠されている「釜ヶ崎芸術大学」は、この地域を一つの大学と見立て、「学びたい人がいれば、そこが大学」という理念のもと、2012年に開講しました。ここでは、地域に暮らす人々や国内外からの旅行者、アーティスト、研究者など、様々な背景を持つ人々が集い、年間80から100に及ぶ多彩な講座やワークショップが開催されています。美術や詩、天文学、哲学など、その内容は多岐にわたり、参加費は無料またはカンパ制となっており、誰もが気軽に「学びあい」に参加できる開かれた場となっています。これらの講座の一部は、施設内でも行われています。
建物全体がアート空間となっており、「ゲストハウスミュージアム」とも表現されることがあります。地域住民や宿泊者、アーティストなどが協働で作り上げたアート作品が館内の随所に飾られており、壁や階段、トイレに至るまで工夫が凝らされています。宿泊施設としては個室も備えているようです。
施設内にはカフェスペースも併設されており、10時から20時まで営業しています。提供されるメニューには、もやいコーヒーやブーメラン弁当(容器を洗って返却するシステム)、自家製梅ソーダ(季節限定)、チャイなどがあり、アルコール類は13時から提供されています。手作りのおやつが提供されることもあり、こちらはカンパでいただくことができます。カフェは単に飲食するだけでなく、多様な人々が出会う交流の場となっています。お客さんも主体的に関わる「参加型カフェ」としての側面もあり、可能な範囲で皿洗いや片付けなどを手伝うことが推奨されています。また、経済的に余裕のない人のためにコーヒー代などを先払いする「恩送りコーヒーチケット」という取り組みも行われています。
この場所のもう一つの特徴として、「共食」の文化があります。昼食(12時頃から)と夕食(18時頃から)は、スタッフや宿泊者、地域の人々が食卓を囲み、一緒に食事をします。事前の予約が望ましいとされていますが、持ち込みをして皆で分け合うこともあります。食事を通して自然な会話が生まれ、多様な人々との交流が深まります。
施設の奥には豊かな緑の庭があり、井戸も掘られています。この井戸は、地域の人々と共にスコップで掘ったもので、共同作業のシンボルとなっています。庭では季節の植物や果実が実り、摘み取ったミントを使ったモヒートが名物になることもあります。朝には皆でラジオ体操を行う習慣もあります。庭は都市の中にありながら、自然を感じられるリラックスできる空間です。
さらに、施設の一角にはバーを改装した「本間にブックカフェ」というカウンターがあります。ここでは日替わりで「一日店長」が立ち、訪れた人との会話を楽しみながら、その人に合った本を選んでくれます。宿泊者が一日店長を務めることも可能です。
「ゲストハウスとカフェと庭 釜ヶ崎芸術大学」は、単に宿泊や飲食を提供するだけでなく、アート、学び、交流、共同作業といった多様な要素が混ざり合い、訪れる一人ひとりが自分を表現し、他者と出会い、共に何かを作り出すことができるユニークな「であいと表現の場」と言えるでしょう。多様な人々が自然体で集まり、温かくフレンドリーな雰囲気が魅力の一つであり、「生きることは表現」という考えのもと、日々の営みがそのまま「人生劇場」として展開されています。釜ヶ崎芸術大学の学生証を提示すると、提携する一部の映画館で学割料金が適用される特典もあります。