愛知県名古屋市南区柴田本通4-5 1Fに位置していた「the Kong」は、名鉄常滑線柴田駅からわずか徒歩1分から2分圏内という利便性の高い場所に、2021年12月に開業したベトナム料理レストランでした。その店舗は、かつてナイトクラブとして営業していた空間をそのまま活用した、非常にユニークな内装が特徴でした。一歩足を踏み入れると、まず広々とした待合室のようなスペースが広がり、その奥にはミラー張りの天井や絨毯敷きの床、さらにはステージまでが備え付けられた、他にはない独特の雰囲気を醸し出していました。この広大な空間は、約200名もの客を収容できるほどのスケールを誇り、一般的な飲食店では類を見ない、まるで壮麗なサロンのような開放感に満ちていました。店内には50席以上のテーブル席がゆったりと配置されており、グループでの利用はもちろんのこと、一人でも広々と快適に食事を楽しめるような配慮がなされていました。
「the Kong」の経営は、ベトナム南部ビエンホアの出身である、当時28歳の若いオーナー、チャン氏によって行われていました。彼はホーチミン市9区での居住経験も持ち、日本人である奥様がいらっしゃることから、非常に流暢な日本語を話すことで知られていました。厨房を預かるシェフのファム氏もまた、チャン氏と同じビエンホア出身で、以前はビエンホアでベトナム南部名物の豚焼肉のせごはん「コムタム」などの飲食店を複数経営し、その後は東京のベトナム料理店で腕を磨いた経歴を持つ実力派でした。このような本場の経験と知識を持つ二人が提供する料理は、まさにベトナム現地の味を忠実に再現しており、日本にいながらにしてベトナムの奥深い食文化を体験できると多くの食通から注目されていました。
メニューは、前菜からメイン料理、さらには鍋物に至るまで、約90種類ものベトナム料理が並ぶ圧巻のラインナップでした。代表的なベトナム料理である牛肉のフォーや鶏肉のフォーといった定番の麺料理はもちろんのこと、ベトナム中部のフエ地方で愛されるピリ辛牛肉麺「ブンボーフエ」や、ベトナム南部特有のスペアリブ入りフーティウといった地方色豊かな珍しい料理も提供されていました。ランチタイムには、コストパフォーマンスに優れたお得なセットメニューが用意されていました。具体的には、プリプリの生春巻き1本と香ばしい揚げ春巻き1本、新鮮なサラダに加えて、牛肉のフォー、鶏肉のフォー、ブンボーフエ、南部風スペアリブフーティウなど8種類の中から好みのメイン料理を選べ、さらにドリンクとデザートまでが付いて1,350円(税別)という内容でした。単品メニューも充実しており、適度な辛さが特徴で食欲をそそるピリ辛ビーフブンが950円(税別)、パクチーの香りが爽やかな生春巻きは、独自のココナッツソースと共に200円(税別)で提供されていました。その他にも、日本ではあまり馴染みのない火鍋や、ワタリガニ、新鮮な牡蠣を使った料理など、多種多様なベトナム料理が豊富に用意されており、訪れるたびに新しい味との出会いが期待できる、まさにベトナム料理の宝庫のようなお店でした。
本格的なベトナム料理を広大な空間でゆったりと楽しめる「the Kong」は、名古屋市南区に新たな食の魅力を提供する存在として期待されましたが、残念ながら2021年12月のオープンから比較的短期間の営業を経て、2022年3月頃にはすでに閉店しています。その短い期間ながらも、名古屋において本場のベトナムの味を深く紹介したその存在は、多くの人々の記憶に刻まれています。