福井県鯖江市河和田町2413ー2にかつて存在した「むつのはな」は、日々の喧騒を忘れ、心と体が健康になるような特別な食体験を提供していました。この場所は、越前漆器の産地として知られる河和田町に佇む一軒家の民家を改装した空間で、ひっそりと隠れ家のように営業していました。主な営業日は水曜日と木曜日の週二日限定で、ランチタイムの11時30分から16時00分まで(ラストオーダー15時00分)と、非常に限られた時間帯のみ予約制で営業されていました。
「むつのはな」を営んでいたのは、京都で懐石料理を、東京でイタリア料理を学んだ経験を持つ料理人、五十嵐美雪氏です。和食とイタリアンの両方の技法を習得した彼女が、その豊かな経験と独自の感性を融合させ、和洋の垣根を越えた独創的なコース料理を提供していました。料理の提供は茶事を模したスタイルが特徴で、席に着くとまず自家焙煎の季節のお茶が供され、ゲストは心と体が緩むような穏やかなひとときから食事を始めることができました。
提供されるコース料理は、その時々の旬の食材を最大限に活かした「おまかせ」が主体でした。特に注目されていたのは、滋賀県の精肉店「サカエヤ」の新保吉伸氏が手掛けた熟成肉のコースです。熟成肉の中でも、扱いが難しいとされる経産牛を丁寧に水分調整し、「むつのはな」独自の旨味のバランスに整えられた肉は、強火でさっと焼き上げられ、その絶妙な火入れ加減と豊かな風味が絶品と評されていました。また、越前漁港でその日に水揚げされた新鮮な魚介類や、福井県内で採れる旬の野菜、さらには塩に至るまで、地元の豊かな恵みを吟味し、料理に取り入れていました。コースの始まりを飾る前菜には、旬の食材を甘、酸、辛、鹹、苦の五つの味わいに分けて提供される「五味の膳」が用意され、一品ごとに繊細な季節感が表現されていました。
食事の締めくくりには、東京・小石川香炉園製の石臼挽き抹茶を用いた、丁寧に点てられた一服の薄茶が供されました。この薄茶は、洋梨のジェラートや香ばしい米糠のクッキーといった季節感あふれる甘味と共に提供され、茶の湯の奥深い心を味わうことができました。提供されていたコースの価格は、魚料理が5,000円、肉料理が6,000円、魚と肉の両方を堪能できるコースが8,000円といった設定がありました(当時の情報に基づく)。
店舗のアクセスは、北鯖江駅から車で約14分、鯖江インターチェンジからは車で約12分を要し、主に車での来店が推奨される立地でした。公共交通機関のみでのアクセスは限られていたため、自家用車やタクシーの利用が便利でした。
店内の座席は、カウンター席が中心に配されており、料理人が目の前で調理する様子を間近で見ながら食事ができるという魅力がありました。また、一部屋ながらも個室も用意されており、プライベートな空間でゆっくりと食事を堪能したいゲストにも対応していました。窓からはのどかな農村の風景が広がり、四季折々の移ろいを眺めながら、ゆったりと流れる時間の中で食事を楽しむことができました。総席数は限られており、予約が必須の特別な空間でした。
「むつのはな」では、提供される料理を彩る器にも並々ならぬこだわりが見られました。河和田ならではの越前漆器をはじめ、福井県内の陶房やガラス工房に特注したオリジナルの器が用いられ、料理の美しさを一層引き立てていました。さらに、特別なサービスとして、漆塗りのグラスで福井の地酒を楽しむ日本酒のペアリングコースが提供されることもあり、福井の伝統工芸と食文化を融合させた独自の体験も提供していました。時間を気にせず、ゆったりと食事を楽しむという店主の想いが、提供されるすべての料理とサービスに細やかに反映されていました。